今日は!突然始まるジョーカの一話完結エッセイなのです!
可愛くなりたいと悩む人達、そして働く人達へ向けて書きました。
これは私が人生で初めて素敵なパンプスを買ったお話です。
背が高いという話
私は身長が166㎝あります。
細かく言うと166.7㎝辺りだったはずなので、ほぼ167㎝。
日本人女性の平均身長が158㎝であることを考えると、だいぶ高い方ですね。男性に例えると180㎝台、高身長イケメンのポテンシャルになるでしょう。
身長が高いことは自慢だし長所だし、自分の好きなところです。
ロングコートやすらっとしたハイウエストパンツが着こなせるし、ショートカットにすればすごくスタイルがよく見える。
そして音楽をやっていたこともあり、ステージ映えすることが何よりも誇らしかったです。
「身長高いね」「スラっとしていてかっこいいね」
そういう言葉を投げかけられることもとても気分がいい。
カフェでコーヒーを飲むときは足を組んじゃったり。
かかとの高い靴を履き、ロングスカートやスキニーを履いて街を歩けば、
なんだかちょっと強い女の子になったみたいで優越感もありました。
背の高い女の子。
小さくてかわいい女の子に憧れたりもするけど、背の高い女の子も絶対悪くない。
ただ。
きっとこれは背の高いすべての女の子たちの悩み。
華奢なパンプスがはけないこと。
身長が高ければ、それを支える足は自然と大きくなるのです。
私の足の大きさは24.5㎝。
女の子の足のサイズで多いのは22~23.5㎝の範囲でしょうから、一回り大きいことになります。
そう、私は23年間、華奢で可愛いパンプスを履いたことがないのです。
私はパンプスが履けない
女の子の靴というのはすごく難しくて。
可愛くて華奢な靴は基本23.5㎝までしかサイズがありません。
そしてたとえそれ以上のサイズがあったとしても、背の高い女の子の足って幅広で甲の高い形をしていることが多くて。そして私も例外ではなくて。
何とか足を押し込めて「履く」ことはできても、
モデルさんや街の女の子達のように「履きこなす」ことはできないのです。
試着するときに、足が入らなくて店員さんが困った顔になるのなんて日常茶飯。
可愛い靴を履きたいだけなのに、変な汗をかいちゃってなんだか辱めを受けているよう。
いつも帰るころには「あぁ疲れたな」って泣きたい気分でした。
控えめで上品なバレエシューズ、
先の細いきれいな形のパンプス、
どんなに可愛い靴でも、私が履くとパツパツになってしまう。
履く前はすごく愛くるしい形をしているのに、私が履くと崩れてしまう。
ギュウギュウになりながら私の足を包むパンプスを見下ろして、
…なんだか靴が可哀そう。
女の子らしい服を着ても、きれいなお姉さんっぽい服を着ても、足元はスニーカーやブーツ。
背の小さな女の子と並ぶと一回り大きな足元。
高身長の女の子がメンズのシューズを履くというのも少なくない話です。
履くたびに広がってしまう可哀そうな靴。
毎回靴を選びに行くたびに自分の足の大きさを見せつけられて。
私が靴屋を、華奢なパンプスやミュールを嫌いになるのは簡単な話でした。
人生で初めて
スニーカーやブーツタイプの靴で何とかしのいできて23歳。
学生を終え、社会人になる歳。
内定先の新年会。
絶対にいい印象を与えたい大切な場所。
フォーマルな服を着なければいけないときが来ました。
フォーマルなパーティードレス。
避けては通れない華奢なパンプス。
女だから履けるけど、女だから履かなくちゃいけない。
社会人になるならば、一足は持っておかなければいけない。
私の家の靴棚には一足もない華奢でお洒落なパンプス。
渋々、本当に渋々私は靴屋へ行きました。
出来れば履きたくないものを選ばなければいけないというのは本当に辛くて。
似合わないことが分かっているから、どれを見ても可愛いとは思えなくて。
きっと何ともつまらない顔をして選んでいたんでしょう。
靴屋の店員のおじさんが胡散臭いくらいのシワシワクチャクチャの笑顔で近づいてきました。
「何かお探しですか?」と話しかけられ、
「大丈夫です。」と思ったよりぶっきらぼうな声が出ました。
だけど靴が入らないところなんて見られたくない。接客してもらわないで選びたい。
私はおじさんの接客を断りました。
それでも。
やっぱりほしい靴なんて見つからない。
何を選べばいいのかも何が欲しいかもぜーんぜん分からない。
ただ売り場を何周も歩くしかなく、再びおじさんに話しかけられました。
ああ面倒くさい、本当に面倒くさい。
また店員さんの前で「入りません、ごめんなさい」という一言を言わなくちゃいけないのか…。
そう思いながら、
会社の新年会でフォーマルな服を着ること、
それに合わせたパンプスが必要なこと、
足が大きいこと。
ぼそぼそと色々伝えました。
するとおじさんはパッとあるパンプスを持ってきました。
グレーっぽいカーキ色の、先のとがったヒールの細いパンプス。
アッパーのきれいにカットされたウェーブのラインが印象的でした。
そして、私が今まで絶対に避けてきた細くて華奢なパンプスでした。
もう嫌だなあ、どうせ入らないんだよなあ。
そう思って渋々足を通しました。
今までだって華奢な靴で入るものはあったんです。
何とか靴の中に足を押し込んで、
可愛い靴の形が崩れてもいいならば。
ちょっと痛い思いをしながら「履ける」だけの靴ならば。
でもそのおじさんが持ってきてくれたパンプスに、
少しの抵抗もなく私の足は収まりました。
あんなに今まで履けなかったのに、
そこには憧れて憧れて仕方なかった華奢で可愛い足元がありました。
たったそれだけの事です。
女の子が、華奢なパンプスを履けたこと。
可愛い足元になれたこと。
でも私にはすごく大きくて。
23年間憧れていた可愛い足元をやっと手に入れることができたことが信じられなくて。
「入る靴あるんだ…」
思わずそう漏らした私に、おじさんはやっぱりシワシワで、
「そりゃありますよ。」
と、さも当然のように返しました。
田舎のその町にしかないようなデパートの中の、
おしゃれでも何ともない、
昔臭い小さな靴屋さんです。
こんなところで、人生変えられちゃうこともあるんだなあ。
そんなことを思いながら、まだ寒い冬の日、
暖かくなったらこのパンプスをたくさん履こう、と
買ったばかりの靴が入った箱を抱えながら帰りました。
「仕事」をするということ
プロ、仕事人。
色々な言い方がありますが、靴屋のシワシワのおじさんは「靴を売る」という仕事のプロでした。
23年間抱えてきた私の悩みを、パッと持ってきた1足で解決してくれました。
大げさに聞こえると思いますが、あのおじさんが私の人生を変えたことは確かです。
可愛い足元をあきらめていた私は、いろんな靴に挑戦するようになって、
今まで履かなかった靴も履くようになれたし、
それに合わせて今までよりもっといろんな服も着るようになって、
以前よりもっと自分に自信がつき、堂々と振舞えるようになりました。
私も社会人1年目を終えもうすぐ2年目になろうとしています。
「仕事」というものが一体何なのか。
私のすることが、誰の人生にどんなふうに影響していくのか。
そして私はどんな「仕事」をして生きていきたいのか。
春がのぞく今、もう一度あのパンプスに足を通して考えてみようと思います。